囁きを返す

もうだめ、だめ、と繰り返す君がかわいくて、手指の悪戯が止められない。
「ケイン、……ケイン」
「た、ば、てぃえーる、さん」
名前を呼ぶと切れ切れに名前を呼び返してくれるのがかわいい。そして嬉しい。
前立腺を押し潰すのをやめて、少しずれたところを攻める。あれだけやだとぐずっていた彼が、途端にもどかしそうに揺れだした。
「ぁ、は、」
ケイン、と、どんな睦言よりも効くらしい君の名前を囁く。俺は今、君を見ていて、君を感じていて、君に恋して、君を愛しているんだと、求めているのは君だと、少しも疑わないように、君の名前を呼ぶ。
「も、ゃ、で」
「ん?」
「ぁ、ン、……い、」
「い?」
意地悪く囁くと、じっ、と、睨まれるように見つめられる。恥じらいが覆っていて、愛おしくてたまらない。いれてほしい、と口にするのが恥ずかしいらしい。わからないふりをして指でいじめるのを止めないでいると、ぐい、と首裏に両腕を巻かれて引き寄せられた。耳元に唇を触れられて、たっぷりと、注ぎ込まれる。
「お願い、します」

クラクラした。
俺はこの声に弱い。

「……いれるよ」
指を引き抜いて、急いで自分のものにスキンを被せ、一言、声をかける。彼は頷いて、受け入れるために深く息を吐いた。
「ん、あ、は、あっ、アアッ、あっ」
さっきと変わらない体勢のままいれたから、耳元で彼の艶めかしい喘ぎ声が熱っぽく響く。煽られて、強く腰を打ちつけた。彼がまた一層激しく喘ぐ。
そのまま、抽送を繰り返して、彼に時折、好きだ、と囁くように告げれば、彼は応えるように締め付けを強くした。目尻に浮かぶ雫が、綺麗で、ちゅ、とリップ音を立てながら吸い取る。
「た、ばてぃえーるさ、ん、タバティエール、」
浮かされたように俺を呼び捨てにする瞬間が、好きで、俺は、普段の時にもしそう呼ばれたらどんな顔をしてしまうかわからない。それだから、これを聴けるのは、この瞬間だけで勘弁して欲しいなんて、贅沢なことを思う。
「っ、ケイン、」
「アッ、も、う、」
グ、と、限界が近付いて、勢い良く引き抜いてから、撃ち抜くように腰を押した。ケインが一際高い声をあげて白濁を吐き出す。自分もスキンに向けて吐き出して、熱い息を吐いた。
ずる、と、抜け出す時、ケインが少し、寂しそうな顔をする。

「タバティエール、さん」

キスをねだられて、キスを落とした。
俺だってしたかったのだ。伝わっているだろうか。
今夜もありがとう、と、想いを込めて髪を掻き抱く。
長いキスは、唇を触れ合わせただけの、でもそれでじゅうぶんで、これがいちばん、互いに満たされてゆく。

愛しています。
囁いた君の、赤い耳元が愛しくて、そっと触れながら、囁きを返した。