唇がふっくらと笑う。この小さな唇に自分は今まで何を挿入れてきただろうか嗚呼。可愛い声が愛らしく話を紡いでいく。このお喋りな唇に自分は今まで何を言わせてきただろうか嗚呼。
「なに考えてるの」
顔は依然明るい昼の色を灯している。それなのに、話をぴたりとやめた唇は今はもう。夜の形に歪んでいる。睫毛と睫毛を合わせて離して、瞳の色はゆらゆら揺れて。舌を出す。喉が渇いた。
「リンの唇えろいなぁって」
「レン、全然話聞いてないじゃない」
「思春期男子の頭の中なんてこんなもんですよ」
「そうかなあ」
「リンは俺以外知らないから知らないだろうけど、そういうもんだよ」
「レンは私以外の女の子のこと知ってるの」
「知らない」
「じゃあレンは女の子のこと知らないのね、私以外」
「リンのこと以外なんてぜんっぜんしらない。つーか興味ない」
「男の子も?」
「どういう意味それ?」
「最近はやってるんだって。ぼーいずらぶ。レンは興味ない?」
「さっきも言った、興味ない」
「そーなんだ」
「……なんでそんなちょっと残念そうなの」
「もしレンがちょっとでもそういうことに興味あったら、ミクちゃんやグミちゃんが喜んだのになーって思って」
「その話は後でじっくり詳しく教えてもらおう」
「でも私はほっとしてるんだからね」
「しってる」
「レンねぇ、さっき何考えてたの」
「だからリンの唇えろいなぁって」
「なに、考えてたの?」
「……」
「れーんー」
「りんのえっちなとこ」
本当のこと言ったら、黙っちゃうんだから。
「リンは何考えてたの? さっきから俺の唇見てるけど」
「……言わなきゃだめ?」
「だめ。十秒以内」
「レン、待って……まって!」
細い腕を掴んでベッドに押し倒した。カーテンから落ちかけの陽が差し込んでいる。部屋の照明がリンの腕や足、服が隠している場所以外の肌をすべて照らす。紅い頬も唇も。
「……もう三日我慢した」
親にこっぴどく叱られたときのような不貞腐れた声色になって、リンが少し笑ったのが見える。しょうがないなといった顔。甘いケーキみたいに俺に甘い表情。
「私も三日、だよ」
「俺ら耐え性ないんだな」
「思春期だからしょうがないんじゃない」
「女の子もなの?」
「他の子は知らないけどね」
わたしは、そう言いかけた唇を塞いだ。