「さしあたって僕の恋人になってくれないかな」
「いやだよ」
「アンリがついに挙式するって言い出したんだよ、恋人同士でもないのに」
「アンリさんの中では恋人同士だからね」
「他人事だと思って朗らかに笑いやがってこの偽善者が」
「ひどい、あと苦笑だよ」
「とにかくこのままじゃ友達になる前にアンリと夫婦になっちゃう、それはいやだ」
「夫婦になっても友達みたいな関係は築けるんじゃないかなぁ、って私は思うんだけど……?」
「みたいなじゃいやなんだ僕はアンリと対等な友達になりたい、今の僕はアンリに認められたって言えない」
「左門くんのこだわりすごいなぁ……とりあえず一旦落ち着こうよ、嘘ついたってアンリさん傷付けるだけだよ? いいの?」
「ぐ…………」
「恋人だって素敵な対等の関係になれると思うけどな。左門くん、アンリさんと恋人になりたいって思ったことないの? あんなに可愛いんだし」
「これだけ長い間付き合ってきて君は僕が恋愛感情とかそういう方面の欲を持っているように見えるのかい?」
「見えたことないね一度も。左門くん、独占欲と執着心は人一倍強いけど」
「喧嘩売ってるの?」
「少なくとも悪い方に執着されてる当事者からの印象だよ。……もう二人はどちらかが折れるしかないんじゃないかなぁって今まで見てきた私は思うけど……」
「はぁーやだやだこれだから偽善者は。勝手に人の気持ちを詮索して横入りだなんて」
「巻き込もうとしてきたのはそっちなんだけどな!?」
「わかったよ、そこまで言うならこの案は止めにする。僕も冷静に考えれば君と恋人同士のような振る舞いをしなくちゃならないなんて考えただけで反吐が出るし」
「うわむかつくなこいつ」
「……九頭龍くんとなんてどうだろう」
「だから落ち着いて! 根本的に変わってないよその案!」
「だめだな、彼も親友だし……あー……まぁ、多分またアンリの気まぐれだから、本気にしなくてもいいか」
「……本当にいいの左門くん」
「……何が?」
「いつまでもそんな感じで」
「…………」
「……これが人間同士なら別なんだろうけど、彼女は悪神で僕は人間だ。正直、アンリがどういう気持ちで僕のことをそういう風に見てくれているのか分からないんだよ」
からんからん
「……どう思いますか、あれ」
「不毛だな」
「ネビロスさんもそう思います?」
「第一、あいつらの普段のやりとりを見ていると仲の良い友人同士にしか見えんがな」
「やっぱり認めてもらいたいんでしょうね、アンリさんに」
「俺としては左門にあの最強の悪神に勝てるようになられると非常に困る……」
「あはははは……それ左門くん人間やめてませんかね……」
いつか人間が人間のまま彼女に勝てるようになれたら、その時は。