二日前日本の家に行った。だからあんな夢を見たのだとプロイセンは思い至る。庭で見た立派な桜を褒め讃えたところ、日本から興味深い話を聞いた。それこそが夢の原因だとプロイセンは断定する。
我が麗しの弟が桜の木の下で死体として眠っていた。夢の中で。それを自分は近くから見つめていた。どう考えても自分の方が先に死んでしまうのにおかしな夢だ。
弟は本当にただ眠っているだけかのように幹に凭れかかり瞼を閉じていた。薄い唇は固く結ばれ、それでも触れればまだあの柔らかい感触が残っているように見えた。金の睫毛が音もなく風に揺れている。陶磁器のように白く滑らかな肌が青褪めて、ドールのようだった。うつくしいその顔に、桜の花びらが散る。幻想的で魅惑的、非現実的だが心臓の高鳴りだけやけにリアルだ。夢の中だからなのか、弟の死体なんて一番のショッキング映像を見ても動揺より先に感嘆が漏れてしまった。いや、動揺はしたかもしれない。こんなにうつくしい死体は、今まで見たことがなかった。
ベッドの上で夢の映像を思い出していく。
合わせて思い出す日本から聞いた物語は、そう、桜の下には死体が埋まっている、という話。
夢の中、死体が埋まる桜を見た。身体一つ分、色の濃く変わった地面。下にいるのは弟だと確信した。時間を巻き戻していく。
死体の弟を前にして己は、気が付けばシャベルを手に持って、掘って、掘って、傅いて冷たい指先にキスをして、冷たい唇にも口付けて、覗き込んで愛おしく見つめたあと、持ち上げて、冷たい地面に降ろした。このうつくしい弟を誰にも見せぬよう、桜にすら見せぬよう、土を被せた。自分以外誰の目にも触れられたくなくて、あとからあとからすべてを覆い隠すまで被せた。気が付けば、咲き誇る美しい桜を見ていた。
だから、弟を桜の木の下に埋めたのは、自分だ。
プロイセンは少しだけ自嘲気味に笑うとシーツを捲り起き上がる。
「兄さん、もう起きたか」
ドイツが階下から呼ぶ声が聞こえる。香ばしい朝食の匂いが漂ってきた。
「ああ、すぐ行く」
眠気を押し殺した声でプロイセンはそう答え、なんでもない朝が今日も始まる。