「あ、いちばんぼし」
加州清光の明るい声に空を見上げる。日の暮れてきた夕空に瞬く星がひとつある。
「あるじさまーお酒持ってきてもいーい?」
振り返り清光が聞いた。
「そうだねぇ、つまみも一緒なら、まあいいよ」
悪酔いするといけないからね。そう言うと清光の顔が輝く。
「さっすがあるじ!」
跳ねるように立ち上がり、炊事場へ駆けてゆく。
揺れる髪束を見送ってから、さて、と先まで清光に付き合って貰っていた将棋を片付け出す。
清光が自分用に持ってくるのはおそらく甘い酒だろうな、と予想しながら。
「あるじ、夕餉前なのだから、ほどほどにしないとだめだよ」
清光と共に部屋までやってきた燭台切光忠に、予想通り窘められた。
「わかってるさ」
「光忠さんは飲まないの」
清光が聞く。
「僕は遠慮しとくよ、まだ準備も終わってないからね」
そう言うと、本当に顔を覗かせただけで炊事場に戻ってしまった。いつも身に付けている黒手袋は、外していた。
「……うち、ちょっと飲むだけならあんまりお酒うるさくないよね、きんしゅーとか」
「次郎がいるからねぇ」
本丸一酒好きな大太刀の姿を思い浮かべ微笑む。光忠が拵えてくれたのだろうつまみに手を伸ばした。
「ん、このお酒おいしー」
向かいで薄紅色の酒に口をつけた清光が感嘆の声を漏らした。