思い出してしまった話。

左近から聞いた話はこうだ。看取った後、石田氏は一粒も涙を流さずにいた。ただ静かに穏やかに別れを惜しんでいたそうだ。それが、左近が飲み物を買いに行った数分の間に豹変していた。身の内から噴き出すように叫声をあげ、大粒の涙を溢れさせた。幾度も、幾度も死んだ彼の名を呼んだ。握り締めた拳は爪が食い込み血が滴っていた。院内なこともあり必死で抑えたが、それからも欷歔し続けたと。左近は、その話をしながら泣いていた。みつなりさまの行動は訳が分からないけれど、自分も今突き上げられるように涙が溢れ出てきたのだと。自分の心は知らないのに、自分の体は何かを覚えているようだ、と。それが思い出せそうで、こわくて思い出したくない。左近の体は震えていた。
二人の仲は良好だったそうだ。性格は正反対だが、波長はぴったりだった。会う回数は少なかったが、話す横顔は珍しいほど穏やかだった。しかしそれほど深い仲ではなかったという。気の合う親しい知り合い、その程度の間柄だった。最期に立ち会えたのも偶然だった。
怒号を聞き、駆けつけた病室で見た崩れ落ちる後ろ姿を忘れられない。世の中の全ての悲痛を籠めた嗚咽が室内にただ響いていた。縋るように冷たくなった手を握り、祈るように名前を呼んで、そして、文字通り絶望していた。左近はそう言った。
伊達氏、これも運命なのだろうか。
「……さぁな」
私は自分の選択を間違っていたとは思っていない。伊達氏もそうだろう。死ぬまで何も言わないと彼と約束したのだから。
ただ酷く、やるせない思いだ。